『veneficio』



















「最後に寝たのは」

長い睫毛。黒く濃く細いそれは、彼の瞼に根付いて影を落とす。繰り返された瞬きの回数を数えていると、色艶のいい唇が薄く開かれた。
彼の小さな動き総てを目で追う僕は、彼が所持する何もかもに見惚れてしまっているのかもしれない。

「何の話だ」

あぁ、その声も。
よく通るその音を聴くためだけに存在するとも言える僕の耳が、貴方の声を求めている。もっと、声を。

「最後に、誰かに抱かれたのはいつです?」

解りやすいように言い直せば、彼は「あぁ」と小さな音を漏らす。
足りない、もっと、もっとだ。

「いつ?」
「さぁな」
「そう」

彼は、一言ずつしか喋らない。それを酷くもどかしいと感じる僕が居る。
細い肩にスッと触れた。払われない手が、そこに残る。奇妙な図だ。いとおしむべきそれに感じる、違和感。

「答える意味は?」
「…‥いいえ」

白い頬にそっと触れた。小さな身体は動じない。君は、慣れすぎてしまった。
貴方の肩に、頬に、最後に触れたのは誰ですか。貴方が高い声を浴びせたのは。
綺麗な身体だったのは、いつまで?

「キスをしても?」

唇に、指で触れた。
返事を待つつもりはない。彼が抵抗する様子も、ない。
傾けた顔を近付けて、唇を合わせる。差し入れた舌の奏でる音に、小さく身じろぐ貴方が見えた。
待っていたのは、これ。
いつの間にか彼の頭を抑え付けていた僕の掌が、ゆっくりと首筋に降りていく。あぁ、このまま絞め殺したい。けれど、もう少し。
彼のくぐもった声と一緒に、口許から落ちた唾液が服を汚した。汚れたスーツが貴方の美しさを際立たせる。酸素を求める度に出される声も、快感。

ねぇ、僕はただ。
綺麗な貴方を綺麗なまま、殺したいと。
純粋な 殺意を。

「──‥…、っ!」

目が見開かれたのとほぼ同時に、突き飛ばすように胸を押された。噎せ返りながら倒れて、貴方は大きく咳をする。普段見ぬ姿に、僕はまた魅了されて。
絞り出された貴重な音は、決して聞き漏らさないように。

「な、に…‥た‥」

掠れたそれは、今までに聴いたうちの何にも劣らない。睨み上げる鋭い眼差しも、震える身体も。
僕の求めていたものは、これ。

「毒を、少々」

貴方は、僕の思っていた以上に出来の良いものでした。容姿も、声も、動作も、何もかも。
喉を通過するまで気付かれずに体内へと運ばれたものは、口付けと共に僕が贈った最初のプレゼント。
最強の殺し屋、アルコバレーノ。僕の愛した中で、最も強くて美しい。壊したのは、僕だ。

「さて、」

虚ろになってきた瞳に視線を合わせて。
意識のなくなる寸前まで、網膜に焼き付けられるのは僕の笑顔であるように。

「最期に貴方を抱くのは、誰です?」

僕の贈り物に侵されていく彼に笑いかけながら、先程汚したスーツを剥ぎ取って。
貴方の肩に、頬に、最後に触れるのも。貴方の声を最後に耳にするのも。綺麗な身体を汚すのも。それら総てが、僕になる。

僕の与える快楽に溺れながら死ねるなんて、最高のラストだと思いませんか?


僕が最後に贈るのは、貴方に一番似合う 最期。















リボ受けお題06『薬+強姦』より.タイトル別に付けちゃった...むっくまた毒..笑.
そして強姦未遂でした.すみません.




†2006.7.27