『ゲーム』











新品めいたシーツに皺を刻み、真っ白なそれを汚してやろう。
二人分の体重を支えたベッドから、みしり。当たり前のように鳴き声があがった。


細められたアメジストの瞳に、真っ直ぐと向けられたのは翡翠の瞳。
ベッドの上、シーツの上、白の上に散らばった自分の黒髪。
我ながら、なかなか扇情的だ。条件はクリアされただろう。
スザクの瞳に映る自分の姿を見て、ルルーシュは口端を上げた。そのまま、自分を満たしてみろと言うように。
ルルーシュ、あの。困惑気味の瞳が揺れていて。名を呼ぶ声は少し掠れて聞こえ、聴覚と背筋を刺激させた。
ルルーシュは掌に小さく力を込めて、合図を送る如くスザクの手首を握り締める。早く。唇で急かした。けれど。
決して予想通りに動かない彼に、ルルーシュは怪訝な顔をして見せる。相手は、というと。先程と変わらぬまま。
何が不満だ。言う前に、スザクが唇を動かした。

「…これ、なに?」

ずっと合わせていた視線が、一瞬手元まで落とされる。小首を傾げられて、まさか。可能性がひとつ頭を過ぎった。
なに、じゃない。誘っているんだ。そんなことを今更言うのももどかしく。
どうしてこの状況で解らない。いや、相手はスザクだ。天然だ。思い起こして、心中で自分を嘲笑う。
これはゲーム。動かないなら動かせばいい。だがスザクは、駒などではなく。
ここまで思考を行き着かせるのに僅か二秒を使い、溜め息。
この、馬鹿。そう呟いて、ルルーシュは掴んでいた手首を強く引いた。
バランスを崩したスザクの身体が、声と共に倒れ込む。
耳には謝罪の言葉が入ってきた。彼が謝る必要はないのだけれど。
慌てて半身を持ち上げようとするスザクへ、待てと一言。
犬のようにピタリと止まった彼に、ルルーシュは二度目の笑みを浮かべる。それでいい。

頬をくすぐる栗毛に触れた。癖のあるそれに指を絡めて。
そのたびに、シャンプーの香りが鼻先に届く。どこのものだろうか。今度、同じものを仕入れてこよう。
些細なことを楽しみながら。ふと、止まったままのスザクに気付いてその名を呼んだ。
拒むこともなく相手の行動を許していた彼が、首肯を返す。時の流れは、異様にゆったりと感じられた。

「お前は、俺が嫌いか」

問い掛けに、スザクが眉を寄せるのが解った。
疑問符のついた言葉が返ってくるのを予想し、ルルーシュは相手の襟首に指を滑らせる。
その感触に強張る身体を愛おしんで。
冷たいよ。スザクは素直な感想を述べ、ようやく頭を上げることが許された。
再び重なる視線。無意識のうちに上目で見つめた。
嫌い?どうして。そう言われるときを待つかのように、ただ時計の秒針が動くのを聞き続ける。
急かされているような気分だ。本当は、答えなど聞くつもりはないのに。
本心を読めたことがあっただろうか。解らない。
紛らわすために腰にかけた手が、逆に緊張を招く。何を考えている。
引き寄せてしまえばいい。口付けて、此方のペースに引き込めば。
待て。スザクはどう返すだろう。自分に応えるだろうか。それとも。
幾度か回転する思考の中、ルルーシュはひとつの結果に辿り着く。
一度拒絶されたくらいで崩れてしまうような関係ではない。どこかで、そう確信した。

どのくらいの時が経っただろう。数秒か、数分か。もっと長かったかもしれない。実際は十秒にも満たなかった。
あの、という一言に、惜しくも沈黙は破られてしまう。
言葉のない時間を楽しみたかった。叶わぬ願いだとは解っている。
なんだ。目線だけで返す。先にあるのは、困ったように笑う顔。
させたのは俺だろうか。困らせるようなことなど。いや、言った。悪かった。
それだけ言ってしまえば、全てクリアされるのに。

「僕、好きだよ。君のこと」

スザクの唇の動きを追って、自然と身体に力が入った。時が止まる。そんなことはあり得ないと思っていたが。
そうか、これかと納得し、決まりの悪さに視線を外す。負けた。理解して、再び秒針を進めるために息を吐く。
そこから、また違うゲームがスタートした。
いいだろう。今回だけは譲ってやる。今回だけ だ。
心中でそう決め、ルルーシュはアメジストを瞼に隠した。スザクが、もうひとつ言を加えるまで。

「だって、ルルーシュは僕の大切な友達だから」

無垢な顔でこう言われることほど、残酷に感じるものもない。求めた意味との違いを思い知らされて。
馬鹿は自分か。なら、それでも構わない。結果の解ったチェスとは違う。先の見えない、やはりゲームだ。
上等じゃないか。先刻、自分の巡らせた内容を思い返した。動かしてやろう。駒などではない彼を、この位置から。
自身に誓い立て、ルルーシュは得意顔で微笑した。これで三度目だ。



保健医が帰ってくるまで。残り時間は、短針およそ一周分。









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医務室でお誘い





うちのルルはこんなです
いろんな意味で電波
スザクが空気読めない子なのは公式!
ルルスザにしか見えないスザルル、が基本です

....初書きがこれか...orzzz







†2007.1.27