『真紅の涙』












血の匂いが する。



「あ゛はぁ…」
「…‥あぁ゛?!」

突然聞こえた唸り声に振り向くと、自分の背後に居たのはよく知った顔のよく知った姿。

「またやったのかよぉ、ベル」
「血ィ‥」

まるで浴びたかのように全身を真紅に濡らしたベルフェゴールが、ふらふらとした足取りで近付いてくるのが見える。
その紅が返り血ではなく彼自身のものなのだから、笑顔で歩いてくる姿は異様というか 異常にしか見えない。

「はぁ゛」
「血ぃ出しすぎなんじゃねーか?イカレ王子さんよォ」
「うっせーよアロたんー」
「気色わりー呼び方すんじゃねぇぞ」
「んー」

小さく声を上げると、ベルフェゴールは崩れるように倒れ込み、そのままスクアーロに覆い被さった。

「王族の血ィー‥兄ちゃんの…」
「ベル!」
「うしししっ」

血まみれの指で触れられて、スクアーロの頬も同じように紅に染まる。
自分の上でブツブツと呟き続ける男を退かそうとしても、しがみついて来た腕は思った以上に力が強くて動かない。

「てめぇいい加減…」
「ねー」
「退きやがれ」
「何でー」
「…血ぃ洗ってからにしろ」
「何でにーちゃん死んだのー‥」
「あ?」

そんなもん 自分で殺ったんだろ?
兄貴を殺したという事実を、快感で塗り潰して浸って壊れて
それから自分の血を見るたびに思い出す、極上の快楽。
全部お前が言ったこと。

「兄貴を殺ったのはてめーだぜぇ」
「あ゛あぁ゛ぁ!」
「…‥泣いてんのか?」

見えない瞳から出たらしい涙が頬を伝うのが見えると、血液と混じって自分の顔に降ってきたのが解る。
力を無くしたベルフェゴールの身体がくたりと落ちてくると、その体重は気を失ってるはずなのに、やたらと軽い気がした。

この小さな身体に、一体何を背負わせているのだろう。

血に染まった彼を抱えて連れて行くと、シャワーで血を流してベッドに寝かせた。
髪に指を通すように頭を撫でてながら、静かに寝息を立て始めた顔を眺める。
その顔は 確かに血の通った人間のものなのに。

「明日になればどうせ、また全部忘れたみたいに振る舞うんだろ?」


本当に、イカレた悪魔になっちまったお姫さま。










最後、お姫さまになっちゃってました(眠り姫だからね).
姫が血ぃ流して帰ってきたらアロたんが洗えばいいんだと思われます.そんな話.
壊れたときの姫の口調とか解りません...日記載せてたときのやつからちょっと修正しました.




†2006.7.16