『貴方の唇は風邪薬』










ピピピピ と携帯内蔵の着信音が鳴り響き、サブディスプレイを覗いてみる。
登録されていないはずなのに何故か見覚えのある番号が表示されていたものだから、思わず電話を取ってしまった。

「…‥誰だコラ」
「もしもしー!やだなぁ俺ですよ、俺っ!」

もー、照れちゃってんでしょ可愛いなぁ!俺から電話きたのがそんなに嬉しかったんですかぁー?
一瞬本当に電話を切りたくなったのを何とか堪えようとした、が。
通話口越しに聞こえる気色悪いほど弾んだ馬鹿の声は、更に追い討ちを掛けるかのような言葉を次々と発し続けている。
やっぱり切ってやろうか。

「………‥てめー絶対オレオレ詐欺出来ねーな。つーかイタ電なら切るぞ」
「あれー、ダメですよ切ったら」
「何か用あんならとっととしやがれ」
「実はですね、俺風邪引いちゃったんですよ!」
「…ほーぉ、良かったなコラ」

段々とスカルの言わんとしていることが読めてきた。
けれど、俺の予想が正しいのなら このまま面倒な話に持って行かれるのが目に見えている。

「と、言うわけで先輩!勿論お見舞いに」
「行くわけねーだろ」

嫌な予想ほど見事に的中するもので。
(本人曰く)病人のくせにやたらと元気なスカルの見舞いなんて、時間の無駄にも程がある。
それよりもリボーンの家に行きたい。金もないし、夕飯でも奢ってもらいに行こうか。

「えーっ酷い!可愛い後輩が病気で倒れてるんですよ?!…っごほ、ごほ」
「…あー、何か幻聴聞こえた。じゃ、俺出掛けるからな」
「そんな殺生なこと言わないでくださいよコロネロせんぱぁぁい!!飯奢りますから、ねっ!」

今度こそ電話を切ろうとしたときに耳に飛込んできた言葉に、ボタンに掛けていた指が思わず止まる。

「ま、マジかコラ…‥?」
「えぇ、何でも奢りますよ!だって先輩今の所持金16円でしょ?」
「いや、さっきチョコ買ったから今6円…‥ってお前何で知ってんだ?!」
「まぁまぁ、細かいことは気にしないでくださいよ。じゃぁ俺待ってますからね!」

一方的に話を終わらせると、スカルは勝手に電話を切った。
今夜の夕飯が確保出来たのは良かったものの、スカルの家に行くことには激しく抵抗がある。
ツー、ツー、と鳴り続ける音を聞きながら、自分の金欠っぷりを少し恨んだ。














「えーっ、先輩手ぶらで来たんですか?」
「6円で何買えってんだコラ」

それもそうですねー。笑うスカルは、やはり風邪を引いてるはずなのに上機嫌だ。やっぱ仮病だろお前。
そう言い掛けたが、いつもは無駄に蒼白い肌が少しだけ赤くなっているような気がして口を閉じる。
熱、あんのかな。

「体温計ねーのか?」
「ありません」
「お前っ、何処で風邪って判断したんだコラ!」
「ちょ…‥叫ばないでください、何か頭に響く‥」

なら何で俺を呼んだんだ。疑問を抱きつつも、ベッドサイドにあった椅子へと腰を下ろした。
何となく という感じでスカルの額に手を当ててみる。ちょっと熱いか?
でもよく考えてみれば此奴の通常体温を知らないから、これが熱いのかは解らない。
でも自分の掌よりは、熱い気がした。

「あー‥」
「何だ」
「先輩の手きもちい」
「お前の言動はいちいち気持悪いな」
「あはははっ」

やっぱり熱あんだろな。へらへらとした笑顔を浮かべるスカルを見て、少し迷ってから手を退ける。
一瞬、名残惜しそうな目がチラリと向けられた。

「…‥アレやってほしいです」
「アレ?」
「ほら、タオル濡らしておでこに乗せるやつ」
「パシリのくせに生意気言うな」
「たまにくらい優しくしてくださいよー」
「…‥はー‥」

軽く溜め息を吐きながら、渋々腰を上げてキッチンへ向かった。
テーブルに乗っていたタオルを取って水道水で濡らすと、またスカルの居る部屋へと戻る。
再び見たスカルは、何故か布団を頭まですっぽりと被った状態だった。

「生きてっかー」
「…‥死んでます」
「あっそ。じゃぁ俺帰…」
「えっ!」

布団と一緒にがばっと起き上がったスカルは、思いっきり顔をしかめてふらりと後ろへ倒れる。
また枕に頭を預けると、俺の方を見ながら「頭痛い」と呟いた。

「お前馬鹿だろ」
「いや、馬鹿とコロネロ先輩は風邪引かないってリボーン先輩が言ってました」
「あぁ?」
「風邪のときって、人が恋しくなるんですよね」

眉を吊り上げた俺を遮るように言って、スカルは背を向けるように寝返りを打つ。
何が言いたいんだ此奴は。とりあえず何かムカつく。

「おい、顔こっち向けろタコ」
「うー‥」
「タオル要らねーのか」
「……‥先輩」

何だ。聞き返そうとした瞬間、タオルを持っていた方の腕が捕えられた。
そのまま引かれて倒れた身体が、スカルの上へと落下する。
状況を把握しきれずにいると、今度は頭を掴まれ顔を向かされた。捻れた首に走る痛み。

「ってー‥何してんだコラ!」
「すみません」

そう口にするのとほぼ同時に、スカルの掌が顔を引き寄せた。重なった唇から侵入した舌が 熱い。

「んーーっ!!!」

口内を這い回る熱に驚き、思わずスカルの顔を殴った。顔が離れれば、唇も解放される。
上がった息を整えるように呼吸を繰り返した後、自分の下で涙目になっていた病人を睨むように見下ろした。

「てめっ、病人が盛んな!」
「…‥だってコロネロ先輩は風邪引かないんでしょ?だったら移しても」
「良くねぇ!!」
「あ、あとソレ…」

もう一発殴ってやろうと振り上げた拳を指差され、反射的に目を向ける。
そこには、先程持ってきてやった濡れタオルが握られていた。

「ソレ、台拭きなんですけど」
「あ」
「先輩かわいー」
「…‥タコにはこれでも充分だろ」
「やですよ」

スカルが本日三度目の笑顔を見せる。
やっぱりもう治ってんじゃないのか?思いながらも、ご丁寧に台拭きを額へ乗せてやった。










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タイトルからふざけてないかコレ!とか、コロスカにも見えるぞコレ!とかとかツッコミ所色々
とりあえず、銀河と交換っこした例のアレでした.スカル気持ち悪ーい楽しーい!
ちなみにコレ書いたときの僕の所持金が6円でした..



†2006.7.30