『10月31日』











風に吹かれたカーテンの揺れる気配が気になって、振り向いた。
窓際にあったのは人の影。それを確認した後、再びデスクに目線を移して。

「あぁ…もうそんな時期か」

10月31日。デスク上に置かれたデジタルのカレンダーが示す日付。


「何しに来た」
「お前に会いに?」

アイツの顔が小さく笑む。

「何処から」
「解ってるくせに」

男の来る前まで開いていた記憶のない窓は、ご丁寧なことに音も立てずに閉められた。
喉の奥から笑う声。普段の彼からは想像出来るものではない。

「今日は祭だ」

軽快な言葉と共に、脱ぎ捨てられたらしいスーツの上着が飛んできた。
戻した視界に入るのは やたらと目立つ柄のシャツ。見慣れたはずのそれに感じた、違和感。

「死人が何の用だ?」
「なーんだ、バレてたのか」

つまんねーなぁ。呟きながら、ランボの姿を借りた彼が楽しげに笑う。

「アイツは窓から出入りできるほど器用じゃねーぞ」
「ハッ…‥なぁ、煙草あるだろ?くれよ。吸いたくて死にそうだ」
「もう…死んでるだろ。それに、ランボは」
「あー吸わないんだろうな。この身体は綺麗すぎて…苛つく」

ロメオは表情を歪ませた。酷い顔だ。
ランボの身体が綺麗なのは確かだろうな、…お前と違って。リボーンが心中で悪態をつく。
先程投げられた上着を椅子に掛けて、ランボの 否、ロメオの方を向いて。
その薄く笑みを浮かべた顔に覚える、軽い嫌悪の感情。

「それならとっとと出て行けばいいだろう?代わりはその辺に幾らでも転がってる」
「そう思うよな。だが生憎、俺の精神はこれが一番居心地良く感じるらしい」
「矛盾してるぞ」
「ただ素直な意見を言ったまでだ」

正直な奴は嫌いじゃないだろ?まるで嫌味を含んだような言い方で。
いつの間にか真正面に居たロメオの指が、髪に触れる。それはいつも見ているはずのものなのに。
髪の毛が少々乱暴に掴まれ、引っ張られて。それでも予想は出来ていた痛みに耐えることは容易だ。

「この身体が大事か?」
「…‥、別に」
「嘘」

眉間の辺りに唇の当たる感触。そのまま下りて来たそれが、顎のラインに沿うように口付け続けて。
慣れた調子の動きに、彼がランボでないことを再認識させられる。
それから舌が 唇を割り入って。口内を這い回るそれは、甘い。アイツの味とでも言っておこうか。
この唇はランボのものだ。薄く瞳を開ければ、相手のエメラルド色のそれと視線が絡む。ランボなのか?
いや、違う。アイツはこんなに雑なキスはしない。口元を伝って零れた唾液が物語る。

「…‥っ、ラン…」
「おっと」

また、強く髪を掴まれた。離れる唇。痛む頭皮。
瞳が揺れたのは、俺ではない。

「人違い、だぜ?」
「そうだな」
「何で呼ばないんだ、名前。俺の」

呼んで欲しいのか、死人の名前を。出しかけた声は喉元で止まった。漂う空気が、決して笑ってはいない。
目線を逸らさなければ良かった。首に絡んだのは、アイツの指。それはロメオの意志で。

「どうした?殺し屋」
「くっ…‥めろ‥」
「ロメオ、だって」

ケラケラと高らかに。ランボの声で、彼らしくない笑い方。

「なぁ、コイツ。お前のこと殺したかったんだったよな?」
「…‥てめーが、死 ね」
「ははっ残念。とうに死んでる」

指先に力が込められて。食い込むそれに、息が詰まりそうになる。
そのうちに爪を立てられていて。流れた血液は、アイツの舌に舐めとられた。
ゴーストのくせにヴァンパイア、か。笑わせる。

「お前さぁ、コイツ殺せないんだろ」

ギリリ、ギリリ。白い指先も赤に変わる。
ロメオの言葉が脳に入った。痛い、けれど、俺は。

「あぁでも…お前殺したら泣くな、コイツ」

パッと手が離れた。鉄臭い指からの解放。思わず膝をついて、噎せ返る。
ボンゴレのヒットマンは幽霊に殺されかけたのか。目の前の彼は、とんだオカルト野郎だ。頭も可笑しい。
上からは狂喜のような笑いがする。キツく睨み上げると、男の表情は変わった。

「…‥ごめん、リボーン」

それは、いつもの音で。いつものリズムで。

「寂しかったんだ、ずっと。…会いたかっ た」

泣きそうな顔が視界に映る。アイツの顔だ、でも。
ランボと、ロメオの表情が重なって見えた。
これはランボじゃない。けど彼の顔だ。これはロメオの身体じゃない。けど、彼はロメオだ。
単純なことに混乱している。そんな自分に、嫌悪の感情。

「愛してる」

その単純な言葉に、くだらない思考が支配されて。覚醒しない脳に告ぐ。
彼は、ただ自分を欲す生き物にすぎないと。

『Trick or Love』

10月31日。憐れな男の唇が、再び俺に降ってきた。








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あと十日くらいあるのにハロウィン笑.チャ会にて「ハロウィンはロメリボで祝う」発言をした気が...
書きながら自分で混乱してきてたorzzz

心の何処かで愛に餓えてるロメオが好き、だ





†2006.10.20