『狂った幸せ』








「早いものですねぇ」
「何がだ」

どうして今コイツと二人で居るのか。いや 今じゃない、もう何年も前からか。

「15年、ですよ」
「………‥」

そうだった、あの日から もうそんなにも月日が経っている。
それは 今からではもう変えられない、変える必要もない事実。

「よくもまぁ、こんなに長く居てくれましたね」
「………‥別に」

理由なんて皆無に近かった。
ただ 何となく、というのとも違う。

「初めはあんなにも 拒んでいたのに」
「気に入らないのか」
「まさか」

二人で居るこの時間が必ずしも重要であるかと聞かれれば、俺は即座に否定するかもしれない。

でも、それなら 必要ないのかと聞かれれば、それはまた違う気がする。
重要ではないのか、という質問にも 俺は否定するのだろう。

「アルコバレーノ、」
「違う、いい加減俺の名前を覚えろ」
「これは失礼。でも、覚えてはいますよ」
「俺はアルコバレーノだ、けど 名前はアルコバレーノじゃない」
「ややこしい言い方をしますね」

クフフフ、というその気持悪い笑い方。
初めはあんなにも、苛ついた。喉を撃ち抜いてやろうかとも思った。いつでもそう出来るように、俺は毎日愛銃を手入れしていたのかもしれない と言えるほどに。

それが、いつ慣れたのだろう。いっそのこと 慣れなければ良かったのだろうか。

「で、何だ」

何をするでも 何をされるわけでもなく、ただ隣に座っているだけ。
傍から見れば 余程奇妙な光景なのだろう。

ボンゴレ1のヒットマンの この俺と、かつてマフィアを追放された この男。

成れ染めは何だ、さぁ 忘れた。
殺し合いは、さぁ 何だそれは。

俺とお前とが二人で居ることは 傍から見れば奇妙な光景。
奇妙な光景だと思いながら見ている奴らは 俺とお前から見れば余程面白い光景。


此方に来てみてくださいよ。
大丈夫です 何もしませんから。約束しますよ。

ただ隣に座っていてくれるだけで良いんです。
そう、此所に。

あぁ ホラ、今彼処の方が此方を見ましたよ。
不思議そうな顔してますね、全く。

愉快で仕様がない。
クハハ、ハハ。


そんな狂ったお前を見て面白いと思った俺は、お前よりも狂っていたのかもしれない。

「幸せ、ですか?」
「幸せ?」

お前の質問はいつも突発というか 突拍子もないというか、解らない。理解不能だ。
幸せなんて言葉 久しぶりに聞いた。今時 真面目に使うヤツの方が珍しいんじゃないだろうか。

何だ、純粋なのか 今更。

「お前は」
「おや、質問してるのは僕ですよ」

全く、と笑うお前はやはり 狂って見える。
端からこの世界自体が 狂っていたのかもしれないが。

そうか、だからお前は 此所には居づらいとばかり言うのか。

人間として 生き物として、この世界で活動することは難しいのだろうか。
確かにお前みたいなヤツが何人も居たら さぞかし生きにくいだろう。呼吸も困難になるとはこのことか。

お前は何を考えているのか隣で笑って 必要なのか必要でないのかも解らない時間を俺と過ごして。
ただそこに居て、道行く人間を見てはまた笑う。繰り返す。狂った行動。

「僕は 幸せですよ」

でも、お前のようなヤツがもし ただ一人だけだとしたら。

「貴方と居るこの時間は、とても」

いっそのこと、お前自身が その一人であるならば。

「では、貴方は?」
「………‥さぁな‥」

僕にだけ言わせておいて、言わないつもりですか。
全く 愉快な人だ。
飽きませんよ、貴方という人間と居れば。
クフフ、フ。

あぁ、また笑うのか。
楽しそうに笑うお前は 狂って見える、けど 少なくとも俺よりは。
生きた人間に 見える。

「それだけの幸せで満足出来る人間なんて、居ない」
「そうですね」

幸せだと言いながらもまた次の幸せを求める、それが人間だ。
これを幸せと呼び満足した と感じた時点で、お前はまた新しい幸せを探す。

俺と居ることが幸せと言えるのなら、アイツと居たら ソイツと居たら、お前はどんなに。

「でも、本当に不幸な人間も 居ませんから」

皆さん、本当はほんの少しだけでも幸せがあるはずなんですよ。
気付いている方もまた 少ないのですが。

不幸というのは 幸せじゃ無いことを言うのではありませんか。
幸せが全く訪れず 何もかもが絶望で、と。

もし本当にそんな方がいらっしゃるのなら、既に人間として生きていられませんね。
何かしらの小さな幸せでも ほんの少しだけでも訪れたことがあったからこそ、今こうして生きていられるのでしょうから。

ホラ、あの人も その人も。

こんな生きにくい世界で 皆さん、本当に幸せではなくても 本当に不幸でもありませんよ、きっと。多分。


そんなこと、お前が何故解る。そう聞こうとしたが これはこれで、嗚呼。
お前が言うと 本当にそんな気もしてくる。

今、幸せはだとお前は答えた。でも 幸せではないことも充分に、だから。

「さっきまで、」
「はい」
「………‥不幸なヤツなのかと 思っていた。お前も 俺も、それで」
「どうでしょうね」

不幸な者同士は 何故か集まってしまうと聞いたことがあった。
その所為なのかもしれない けれど。

アイツもアイツも アイツも殺した。仕事だ、仕方ない。
それに 不幸そうにも見えた。死ぬことを恐れもせず、嗚呼 あれは単なる覚悟だったのか。
本当は 何かしらの幸せがあったのかもしれない。しかし構ってはいられなかった あれは仕事だ。忘れろ、俺。

「もう一度、幸せ ですか?」

お前は 一体どんな答えを期待してそれを繰り返したのだろうか。
幸せか と問われれば解らない。
でも不幸か と問われれば、否定する。不幸なんかじゃない。
いや、少なくとも。

「……‥、あの時に犠牲になったヤツらよりは な」
「おや」

これはこれは、少々意外な答えでしたよ。
でも、まぁ 悪くない。

「15年前のあの日 お前と会ったあの日、俺は 俺のファミリーは、」

命を重んじたりもせず、だから もうそいつらの顔だって覚えてなんかいない。
敵だから 命令だから 自分の命が危ないから。
そんな理由で多くの者を、傷付け 殺し た。

「でも 辞めるわけにはいかねーんだ、殺し屋を」
「何故 ですか。貴方には似合わない」
「阿呆 似合いすぎだ」

嘘ですよ そんなの。
だって貴方は、こんなにも 人間らしい。
アルコバレーノ。


そう 俺は、アルコバレーノなんだ。
人の子とは認められない、神の子 将また悪魔の子 死神の子と唱われる。
お前がその言葉で俺を呼ぶのが 本当は嫌だった、凄く。それなのに。

幸福だろーが不幸だろーが関係ねぇ、俺はどちらにしろ死なない 死ねない。
一生をボスに捧げる。寧ろそのためだけに存在する。

「それも 違います」

貴方だって人間だ、例え人間らしくないと悪魔だと死神だと言われても 君は。
アルコバレーノ、君はこんなにも 僕に幸せを与えているではありませんか。
僕の前では 僕のための存在。
貴方と居るときの僕は 昔より幾分か人間らしい。おや、そう思っているのは僕だけでしょうかねぇ。

「アルコバレーノには心がない なんて、嘘ですよ。きっと」
「そうか」
「答えはもう出たんじゃないですか?この15年で。いや 寧ろ、出ていたんじゃないですか?15年前の あの日から」

幸せに興味のなかった15年前と 不幸かもしれないが幸せに興味のある今と。
どちらが良いんでしょうかね。


選択肢はそれだけか と笑いかければ、お前は俺の笑みなんかより人間らしい 狂った笑い声を上げる。
そうだな 少なくとも、少なくとも。

「今この瞬間は、まぁ 悪くねーな」
「そうですか」

それは 何より。
言って、また 笑う。

寧ろ、これを言わせるために15年間 一緒に居たのだろうか。

狂ったヤツだ 全く。
飽きない。


俺の答えには 満足できただろうか。








個人的には甘シリアス.
骸リボってゆーか骸とリボ....そして自分はこの2人に何を求めてるんだろう.

密やかにボスリボも.




†2005.1.6