「あれ〜? 何処行ったんさ?」
 無事に千年伯爵を倒し、明日にもこの日本を出ようという日。共に過ごせる最後の晩の筈が、いつの間にやら雲隠れしてしまっていた。


明けぬれば……


「ったく、しょうがねぇな〜」
 ひょい、とばかりに自らのイノセンスであるハンマーを取り出し、振り回してバランスを取りながら江戸城の天守閣の屋根の上、辺りを見渡すことの出来そうな高みへと向かう。
「……アレ? ちょめ?」
 ふと見ると、其処には膝を抱えるようにして蹲る、尋ねビトの姿。抱えた膝に顔を埋めたまま、ラビの声に反応してビクリと肩を揺らした。
「こんなトコで一人で何しちょるんさ? 何処にも居ねぇから探しちまったじゃねーか」
 その傍らに、ラビはストンと腰を下ろした。
「…………ビは…………」
「ん?」
「ラビは、もう帰るっちょ?」
「ん〜明日には帰んねぇとダメだろうなぁ」
「もう、い、一緒、居られな……っ! 多分、も、逢えな……ッ!」
 ボロボロと大粒の涙を零しているであろう、声音。伏せられたままの顔から、表情を窺うことは出来ないが、それでも、悲鳴に近い物言いはその感情を如実に表していて。
「ちょめ……俺に逢えなくなるのが、そんなに淋しいんか?」
「…………ッ!」
 覗きこむようにして問いかけてみれば、イヤイヤをするようにより一層小さく堅く丸くなろうとして。
「ちょ〜め? 俺はまだ此処に居る。ちゃんと俺を見るさ?」
 ラビは、その頭を両手で挟み込むようにして持ち上げ、ぴたりと視線を合わせた。ちょめの瞳は、やはりうるうると涙に濡れ、今にも零れ落ちそうな大粒の涙が浮かんでいて。
「でもっ! でも、ずっと一緒に居られる訳じゃないっちょ!!」
「淋しいんは、ちょめだけじゃないさ? 俺だって、ちょめと居らんないの、すげ〜淋しい」
 ボタボタと零れ落ちる涙を、頭に添えた手の親指でそっと拭ってやるも、そんな程度で追いつこう筈もなく。
「あ〜……ま、いっか」
「ふぇっ!!?」
 そのまま、ラビは顔を近付けたかと思うと今度は舌先で拭い取った。流石にちょめも驚いて涙が止まったらしい。いや、むしろ硬直していた。
「最後、だしな。逆に、笑ってたいし笑ってて欲しい。笑ってる顔を覚えてたいし、笑ってる俺を、覚えてて欲しいから――」
 そう言って、あっさりと笑って見せたラビから、我に返ったちょめは逆に必死で顔を隠そうと暴れだした。
「み、見るなっちょ!! 今、すっげぶっさいくだっちょ!!」
 涙やなんかでベトベトで、散々泣いてきっと目も腫れているから。いくら笑った顔が見たいと言われようと、見せれる顔ではない。他の誰よりも、ラビには見られたくない。最後に見せるのがこんな顔だなんて、冗談ではない。しかも、相手はブックマンJr.だし。
「え〜見たいさぁ。だって、俺が帰っちまうのが淋しいって泣いてくれた顔だもん」
 それだけで、愛おしくってしょうがない――そう囁くと、ラビはその瞼に口付けた。






某所でよくお世話になってる薙さんより頂いてしまいました!
愛弥が日記で「ラビとちょめセットで欲しい」とか独り言を呟いてたらくださったのですよラビちょめ...!
めそめそ泣くちょめ助の可愛さにハート射抜かれましたvv ああぁ愛らしい...ラビも素敵!
薙さんありがとうございましたっ!そしてここぞとばかりにリンクまで貼らせてくださってありがとうございますv