『errore』








部屋に独りで居ると、何かしら考えてしまうことがある。

だから来てみたものの、貴方はいつもの通り 自分からは何も言ってくれない。

「千種」
「…‥何ですか、骸様」

訳もなく部屋に来たとは思っていないんですね、千種は。
ただ独りで居たくなかったなんて言ったら、貴方はどんな風に思うでしょうか。

貴方らしくない とでも言われそうだ。
それはそれで 悪くない、けれど。

「えぇ、ちょっと」
「……‥早くしてくださいね」

この一言だけで次の言葉を予測して返せる千種に、彼と自分との関係の長さを我ながら感じさせられた。

自分でシャツのボタンを外していく千種。
本当は違うのだけれども、もう手遅れですかね。それなら仕方ない。


セックス という言葉を使うのが好きではなかった。

愛するものと交わって、一つに溶ける なんてそんなこと。あり得ないあるはずもないあり得ない馬鹿げている。
人間同士の身体の交わりに愛なんて必要はない。性交とささやかな戯れの中に存在するのはただ一つ、己の求める欲を満たすことのみだ。

あくまでも、己の。


もし仮に、愛するものと交わって一つに溶けると世間で唱われる行為のことをセックスと呼ぶのなら、僕は誰ともこんなことをしたいとは思わなかったのでしょうか。

もし仮に、僕が 愛する貴方と交わって一つに溶けたいんです なんて言ったら、言われた貴方はどう思うのでしょうか。

きっと軽蔑する もしくは何か考えがあるとでも思い素直にさせてはくれないんでしょうね。


愛するものと交わって一つに溶けるなんて、それでも感情 心は二つあるなんてそんなこと。あり得ないあるはずもないあり得ない馬鹿げている。

人間の感情に 愛というものがあること自体がそもそもの間違いなんですよ。


そう、愛なんて そんなの。



((間違ってる))



面倒なら動く必要はない、と貴方は言う。

動けば何かしらの快感を得る事が可能なはずなのに、貴方はただこの体勢で僕の膝の上に乗って自身を呑み込んだまま、唇に何度も触れるだけの口づけを落としてくる。
これでは狭いそこを無理矢理押し拡げているだけになり、苦しい他に何があるのかさえ解らない。

擦れる感触すら与えられないのに、一体この行為にどんな意味があると言うのですか。
そう尋ねた僕に貴方はクフフフ、と笑いながら「愛する人と繋がる為の行為なんですよ」と答えた。


間違っていますよ そんな。

そもそも貴方が僕を 愛する人 という言葉を使って呼ぶこと自体が、あり得ない。

まさかこんな行為に愛という言葉を用いたい なんて思っていないはずだ。
貴方は僕を愛する人だなんて思っていないのだろうし、こんなこと自体 愛を感じながら行うことさえも出来ないのだろうから。

可哀想な人なんです、貴方は。

それなら いっそ。



「ぅ、んっ…‥ちく、さ?」
「早くしてください と言ったはずです」

今まで自分の下に居たはずの千種が身を倒し、いつの間にか馬乗りになっていた。

珍しいですね、自分から動くなんて。

「どうしたんです、急に盛って」
「…‥貴方が妙なことを口走るから ですよ」
「、ぁ」

妙なこと とは一体何でしょうか。

自分で腰を動かし出した千種に身体を密着させながら、ぼんやりと思考を巡らせる。

「あ、ぁ、」

自分の口から勝手に漏れる掠れた音。
奥へ奥へと進んでくる異物感に、身体は正直にそれを吐き出そうとし、僕自身はどちらかと言えば呑み込もうとしている。

間違ってる、愛 なんて。


でも、これで本当に溶けて一つになれるのなら どんなに。

それなら ただ隣に居てもらうだけより、余程。



「千種」




僕と貴方の心が交わり合う日なんて 永遠に来ないのだろうから

こんな間違った行為の最中に

愛してる だなんて
言えるはずも ない。








種→←骸
好きです、種骸.本当は種→骸派だけど書くと種→←骸になる.
きっと報われない関係.
最後の数行は骸と千種の二人とも.





†2006.1.5