『毒薬』








此処から出ることは許されない。
貴方から瞳を反らすことも 許されない。

僕は貴方の愛人ではないし、まして恋人など あり得ない。
二人の関係を表す言葉なんて、きっとこの世に存在しないのではないかと。

そのくらい、辛かった。



「んんっ、ふ‥」
「ちゃんと舌動かして」

咥えさせられた綱吉の自身を、言われるがままに舌で転がした。
掴まれた髪の毛の所為で頭を自由に動かすことは出来ず、喉の奥に擦りつけられる感触が気持ち悪くて瞳に涙が滲んでいく。

抑え込まれた頭が痛い。
口の中が熱くて苦しい。
最初にこうされた時に訴えようとしていた台詞は、発することすら敵わなかった。言ったところで、彼がやめてくれる訳もない。
此処では貴方が絶対で、逆らうなんて もう考えられない。

「ぅ…‥はぁ‥っ」
「いいよ、もう」

綱吉は骸の口内から自身を引き抜くと、未だに掴んでいた彼の髪を引っ張り 潤んだ瞳を自分の方へと向ける。
その拍子に溢れた涙が、骸の頬を伝って一筋の線を描いた。

「今 どんな気分?」
「‥は…‥」

綱吉の言葉が、朦朧とする意識の中で 骸の脳内を駆け巡る。
此処に初めて来て 初めて彼に抱かれた時、感じた。死にたい。もう、生きたくない と。
苦しみも悲しみも痛みも全て 何もかもが嫌で、現実から逃げたくて、それなのに貴方は 僕を生かした。

「あぁ‥まともに喋るなんて無理だよな、そんな 死人みたいな状態で」

視界に映った貴方は、薄く笑みを浮かべた表情で僕を見下ろしていた。
彼の言う通り、今自分の唇から漏れるのは 呼吸を整えるために吐かれる荒い息だけだ。質問の答えを口にする余裕など ない。
貴方に連れられて此処へ来たあの日から、僕にとって 生と死は紙一重。まさに生き地獄。
貴方のたった一声で僕は生き続けることが可能だし、今すぐ死ぬことも 出来るのだから。


「っん、っ、!」

突然の痛みに、思わず噛み締めた唇。そこから流れたのは鮮血。
前戯なんて適当にしかされた覚えもなく、乱雑なだけで愛なんて感じられない。

何度も何度も それが幾年も、繰り返された。もう 慣れてしまった。
慣れたくなんて なかった。

「は、っぁ‥」

無理矢理にねじ込まれた彼の欲望の所為で、もうどれだけ切れたのかも判らない傷がまた開く。
再び溢れた涙が 先程頬に作られた線を辿るように落ちた時、蕾からも血液が流れ出していたのが解った。

苦しい、死にたい。僕にそう思わせていたはずの、長い間与えられ続けてきた 暴力にも近いこの行為。
それなのに、今の僕は 貴方に触れられることを求めている。死にたい けれど、もっと触れてもらいたい。
矛盾する思考は、痛みを伴ってでも 貴方の感触を欲している。

彼以外を見てはいけない。彼以外を愛してはいけない。
触れる指先が、肌が、吐息が 僕を侵蝕していく。まるで彼そのものが毒薬で出来ているかのように、じわじわと来る死にも近い痛みと苦しみ、そして それが産み出す快楽を与えられた。


「ふ、っくぁ、あぁ!」

掻き回された結合部から血や先走りの液が混ざり合う卑猥な水音が聞こえ、室内には骸の嬌声が響く。
充分に慣らさなければ痛いことくらい 解ってはいた。それでも、何の抵抗もされずに挿れるのなんて つまらない。
お前の痛みと屈辱で歪む顔を見るのが堪らないから。
骸の顔が歪むのと同時に俺の心が歪んでいくことくらい、とっくに気付いていたけれど。

こうすることでしか、孤独なお前を愛してやれないことも。

「……‥骸、」
「あっ、ボン、ゴ、‥は…‥」

耳元で彼の名を囁くと、それに応えるように 掠れた音が返ってくる。でもその名は今、俺のものじゃ ない。

「違 う…‥」

動きを止めて呟いた言葉に、顔を上気させた骸が 不安気に曇らせた瞳を此方に向けた。
確かにそれは俺の名前で 長年お前にそう呼ばれてきた、けど。
「ボンゴレじゃ ない」

今お前を抱いてるのは、ボンゴレの自分ではなく 沢田綱吉という一人の人間なのだと。そう言いたいのに、言葉の遣い方が解らなかった。
そもそも今更そんなことを言ったところで、何も 変わらない。それは解っているけれど。

恋人でも愛人でもない、それ以下の関係であっても お前を繋ぎ止めておきたかった。

「ボン、ゴレ‥」

骸にとって俺は ボンゴレの10代目というものでしかないのだろうか。
お前を抱いている時は何をする時よりも夢中になっていて、自分がボンゴレであることも忘れてしまうというのに。

「骸、」

ただ抱き続けていた。それで お前を支配し、自分だけのものとした。
間違ってなんかない。彼は此処でしか生きられないから。

お前を抱いている時に襲ってくる快楽は、気を許したら死に至ってしまうのではないかと思うほど強く 苦しい。
例えるなら 毒薬のような。
それが俺自身のものであることには気付かないまま、お前に与え 自分にさえ回り、二人で 堕ちていく。


お前を抱くのに

貴方に抱かれるのに


毒薬という名の辛い快楽以外 要らない。








ツナ骸布教第二弾...こんなん布教していいのですか(?).台詞少ない..! 最初はドシリアスなツナ←←骸を目指してたんですが、途中でツナがあまりにも酷い人になったのでちょっと(‥‥‥). 結局ツナ→←骸...?でもお互いに片想いだと思ってる感じで.ツナからの愛は歪んでる. 布袋さんのPOISONイメージしたのに違うものになりました..設定はご想像にお任せします(え!).





†2006.2.11